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中国は、1000万人死んでも、構わない覚悟・・・

新型肺炎で「1000万人の犠牲」も覚悟か? WHOを恫喝した習近平の“非情な思惑”
福山 隆 2020/02/04 17:00


また取り違え答弁、声荒らげ注意
「英雄たちの選択」というテレビ番組がある。この番組では、歴史を大きく変える決断をした英雄たちの心の中に分け入り、ほかにどのような選択肢があったのかを専門家の考証に基づいて復元し、独自アニメーションなどを駆使してシミュレーションするものである。スタジオには、異分野の専門家が集結し、英雄たちに迫られた選択のメリットやリスクを検討。歴史的決断の意味を深く掘り下げていく。
 筆者もこの手法に倣って、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大に直面し、待ったなしにその対応に追われている習近平の心の中に分け入ってみたい。

1000万人の“犠牲”は覚悟の上か
 肺炎の感染拡大は、中国にとってはまさしく戦争と同レベルの非常事態である。当然、犠牲は避けられない。人民の生命はどれだけ失われるだろう。
 新型コロナウイルスではこれまでに患者の約20%が重症化し、2.3%が死亡している。一方、パンデミックで最大級だったスペイン風邪(1918~19年)の場合、感染者5億人、死者5000万~1億人に上った。当時の世界人口は18億~20億人であると推定され、全人類の3割近くがスペイン風邪に感染したことになる。
 このことを勘案し、中国人14億人の3割が新型ウイルスに感染し、2.3%が死亡すると仮定すれば、ラフに見積もっても死者は1000万人近くに上る。習近平は最悪のシナリオとして、そこまでの覚悟を持っているのではないかと筆者は見る。

「今年の冬のみ」で抑えられるかがポイント
 新型コロナウイルスによる死亡者の多くは、高齢者が占めている。非情なことではあるが、習近平はこれを、中国の少子高齢化解決の“一助”として利用する可能性も否めない。
 いずれにせよ、新型ウイルスからの人命救助の施策は政権の維持や利益に合致するように、濃淡をつけるはずだ。ただし、後に国内外から人道問題として非難を招かないように、巧妙に行う必要がある。
 新型ウイルス事態に対する基本認識は、「これは一過性のものである」ということだ。この事態が、スペイン風邪のように「二冬」も続くことなく、「今年の冬のみ」で制圧・克服できるかがポイントだろう。
 従って、この事態に対処する基本方針は「如何なる荒療治も辞さず、人・物の損害・犠牲を最小限に抑えて『今年の冬のみ』で乗り切ること」である。
 中国にとって、新型ウイルス対処で最も重視すべきことは、習近平・共産党独裁体制の堅持である。これは、手段を選ばずに実施しなければならない。この事態で、人民はパニック状態となり、習近平政権に対する怨嗟の声が高まるだろう。ただ、幸いなことに、人民は新型ウイルスに対する恐怖や心身の弱体化により、強力で組織的なデモや暴動は起こしにくい状況にある。
 しかし、新型ウイルスの拡大が低調になれば、デモや暴動が活性化する可能性もある。これに対しては以下のような対策・手段を講じるだろう。

李克強総理に全責任を負わせる布石を打っている
(1)トカゲのしっぽ切り戦術
 北朝鮮・金王朝三代など独裁者が特にやってきた、責任を他に転嫁する手法である。湖北省のマスクの年間生産数を間違え、「108億枚から18億枚、最後は108万枚」に3度も言い直した王暁東省長など、同省と武漢市の幹部の初動対応を槍玉に挙げて処断することが考えられる。
(2)派閥闘争(太子党対共青団)
 自派閥(太子党)のライバルである、共青団トップの李克強総理を中央新型コロナウイルス肺炎対策工作指導グループ長に任命しているので、最終的には彼に全責任を負わせることができる布石を既に打っている。
(3)武漢市の事実上の封鎖の意図
 コロナウイルス肺炎感染が深刻化している武漢市に事実上の封鎖措置を実行させた(表向きは武漢市決定)。この措置には、デモや暴動が全国に広がる兆しが出たら、それに先駆けて地域ごとに分断・孤立化させる意図も含まれている。
(4)軍・武警の即応体制
 軍・武装警察部隊には、高度の即応体制をとらせ、米国などの介入はもとよりデモや暴動への対処を準備させる。これにより、軍のクーデターも抑止できるはずだ。

米中覇権争いは一旦休戦となる
 トランプは選挙と議会の弾劾審議に没頭している。加えて、中国とは1月15日に米中貿易協議「第一段階」の合意署名(一種の休戦協定)がなされており、今回の事態で米国が中国に新たな挑発を加える可能性は低い。米中貿易協議「第一段階」の合意で約束した「農産品を含む米国製品の追加購入分として今後2年で2000億ドル(約21兆6000億円)を上積みする」ことについても、早々に催促することはないだろう。
 従って、中国は対米貿易戦争(覇権争い)との二正面作戦は免れ、コロナウイルス肺炎感染事態の対処に注力できるだろう。

WHOを“恫喝”した中国
 中国の14億の人口は外交上の強みになる。1月28日、世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長と会談した際、新型のコロナウイルスによる肺炎について習近平は「WHOと国際社会の客観的で公正、冷静、理性的な評価を信じる」と、緊急事態宣言を出さないよう圧力をかけた。否、恫喝したというのが正しい。
 WHOは、14億人を擁する中国の協力なしには、この問題に責任ある対応が取れない。14億人の中国が、残り56億人の世界の人々の生命を人質にすることができるのだ。中国はこのように新型肺炎という「弱み」を「強み」にすることができるわけだ。
 もとより、中国の国連分担金は3億3470万米ドル(分担率12.005%)で、米国の6億7420万(分担率22.000%)に次いでいることも、一定の圧力になっているはずだ(出典:外務省「2017年~2019年 国連通常予算分担率・分担金」(2019年))。なお、中国は、エチオピアに構築した情報組織により、テドロス事務局長の個人的な弱みや彼の利益となるものについては詳細に把握しているだろう。
 しかし、WHOは30日夜(日本時間31日未明)、ついに「国際的に懸念される公衆衛生の緊急事態」と宣言した。その理由は、「中国以外にも感染が広がり始めた事態を重くみて、感染拡大防止には国際的な協力態勢が必要と判断した」とのこと。ただ、「現時点では中国への渡航や貿易の制限などは必要ない」など、山盛りの配慮の跡がうかがえ、中国の意向を最大限に忖度したことは明白だ。
 WHOの緊急事態宣言は中国経済にとって一定の打撃にはなるが、各国政府や企業から資金や物資など支援が拡大する効果も期待できる。それでも中国が、WHOの緊急事態宣言を忌避した本当の理由は以下の通りだ。
 緊急事態が宣言されると、WHO加盟国は感染者が出た場合に24時間以内の通告を義務付けられ、空港や港での検疫強化や渡航制限といった水際対策の徹底を求められる。それは中国が一定程度、国連(WHO)ひいては米国のコントロール下に置かれることを意味する。また、感染者発生の情報を24時間以内に通告する義務を負えば、「内外に対する情報コントロール」というツールが失われる。このことは、共産党独裁政権にとっては痛手となる。

「日本は中国に保険を賭けざるを得ない」
 外交交渉において、中国の「弱み」を「強み」にする手法は、経済分野でも使える。世界のGDPに占める中国の割合は15.0%(米国は24.5%)であり、中国経済が破綻すれば「世界共倒れ」になることは誰もが承知だ。従って、経済交渉などの場で、「中国経済破綻」を脅しに使えば、米国でさえも譲歩・妥協しよう。

 当面の案件は4月に予定される習近平の訪日である。「香港問題」、「邦人拘束問題」、「尖閣問題」、「日本食品の輸入規制問題」を挙げ、「国賓訪日」に反対する向きもある。しかし、「アメリカ・ファースト」を掲げ、日本に駐留費負担増を要求し、「日本のタンカーは自国で守れ」と言い放つトランプに不安を覚える安倍総理は、中国に「保険を賭けざるを得ない」立場にある、と習近平は見ているはずだ。
「善く戦う者は、人を致して人に致されず」(孫子の兵法)
 この言葉は、「戦い上手な者は、自分が主導権を握り、敵を引き摺り回して、後手後手の戦を強要する」という意味である。中国は今ピンチに立たされているが、「弱み」を「強み」にするしたたかさをもって、国内・国際両面で主導権を握り、この難局を克服して、次なる対米覇権争いの勝利につなげようとするだろう。

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(福山 隆/文藝春秋)





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