平昌五輪での連日のメダルラッシュに沸く日本だが、開催国の韓国では五輪に対し、無関心な若者が多いという。

「自分たちが生きていくのに必死です。オリンピックには何も期待していません。自分たちの生活が良くなることはないですから」

 平昌五輪開催中のソウル市内を歩くと、こんな声が聞こえてきた。

 氷点下の気温の中、大学生の若者たちが暮らしの改善を求め、外に立ち続けていた。韓国社会では若者を取り巻く環境が深刻化し、テレビ局や新聞社もこぞってこの問題を取り上げるという。ソウルの大学に通う女子大生はこういう。

「オリンピックに興味がないのは、現地の寒さやネットで見れるという理由もありますが、そもそも、チケットや宿泊費に払うお金がない人が多いです」

 超競争社会の韓国で顕著なのは受験戦争だ。無事、潜り抜けて一流大学に入学しても待っているのは、さらなる競争社会である。前出の女子大生はこう危機感を募らせる。

「今は、TOEICや資格の勉強、インターンなど、就職活動前にどれだけ自分の経験を積めるかしか考えていません。韓国では、普通の生活ができることが幸せで、その生活を手に入れるためには、とにかく青春を勉強に捧げます」

 韓国の大学生らによると、大学の寮に入れるのは、延世大学など有名大学の留学生、成績優秀者ら一部だけという。

「成績が悪い学生は自分たちで生活をなんとかしなければいけません。しかし、裕福とは言えない若者が入居できる住居は限られ、コシウォン(考試院)で生活する人は一人暮らしの大学生の約30%にものぼります。日本の大学生はアパートを借りるのが普通ですが、韓国では保証金が高く、アパートの一室を借りることさえハードルは高いです」。(同前)

 コシウォンは1部屋2畳前後の小さな部屋で、元々は、大学や公務員の受験生向けであったが、現在は、地方から出てきた若者が借りることが一般化している。そのため、「家賃は6万円、長期契約ですが、今は空きがありません」(コシウォンのオーナー)という状況であった。

「コシウォンは、韓国の牢屋の半分以下の狭さと言われています。コシウォンに住んでいるということは、恥ずかしくて友人の前で言えません」(韓国の学生)。

 韓国で生活する上で、他人からの視線を意識せざるを得ないと指摘するのは、ソウル在住のノンフィクションライター、菅野朋子氏だ。

「韓国に住んでいると必ず訊かれるのは、『どこに住んでいるか』。住む地域によって他人の財力などを判断するのです」。

 こうした経歴重視の韓国社会を生きる若者に、五輪への関心を寄せる余地はない。そんな社会を加速させているのが「就職活動」である。

 菅野氏によると、韓国では若年層の失業率が深刻だという。

「就職難は悪化しており、働き口がないと言われています。そのため韓国より賃金が高い日本でアルバイトでも働いたほうがいいという人も多い。15日から韓国は旧正月で4連休でしたが、今年は帰省せずにひとりで正月を過ごす就活生が多かったようで、『独り正月』という言葉が飛びかいました。就職できなかった学生はアルバイトで生活をつないでいますが、賃金が安く、生活は苦しいようです」。

 韓国の労働者の最低賃金は、2018年1月に、時給6470ウォン(約645円)から7530ウォン(約750円)にアップしたものの、ぎりぎりの生活を強いられる。過酷な環境ゆえに若者たちが五輪に関心を持たないもの無理からぬこと。



「韓国の若者に聞くと、『今どき五輪?』という冷めた見方をしている。アイスホッケーの南北統一チームについてはその過程で物議を醸しましたが、統一チームそのものには関心はない。とにかく個人の幸せをどう実現していくかという個人主義が加速している。」(菅野氏)

 勝ち抜けど、勝ち抜けど、襲ってくる競争社会の波。韓国の若者たちには絶望感すら漂う。

「昔は、一生懸命勉強をやれば、なんとかのし上がれましたが、今はいくら頑張っても、上にいけない。努力しても無駄だという空気が蔓延している」(韓国の大学生)

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